任意保険以外の補償制度について

任意保険以外の補償制度について勉強す前にまずは請求権の時効から知っておきましょう

損害賠償請求権の消滅時効について

交通事故による損害賠償請求権などの権利を一定期間行使しないと、法律上この権利は消滅します。これを消滅時効といいます。

したがって、漫然と過ごしてしまうとその権利が失われ、損害賠償の請求をする事ができなくなってしまうので、交通事故の被害にあったら、できる限り早急に対処するように心がけて下さい。

(1)保険金を請求できる権利 

ア 自賠責保険の加害者請求権は、被害者に損害賠償金を支払ったときから3年

(平成22年3月31日以前に発生した交通事故の場合は2年)を経過すると、時効によって消滅します(商法第663条)。  

イ 被害者が直接保険会社に行う、自賠責保険の損害賠償の請求及び仮渡金の請求権は、損害発生の事実及び加害者を特定できたときから3年

(平成22年3月31日以前に発生した交通事故の場合は2年)を経過すると、時効によって消滅します(自賠  法第19条)。  

ウ ひき逃げや無保険車の事故による政府保障事業への請求権は、事故発生の時点から3年

(平成22年3月31日以前に発生した交通事故の場合は2年)を経過すると、時効によって消滅します(自賠法第75条)。

(2)加害者に損害賠償を請求できる権利

被害者が加害者に対して行う損害賠償の請求権は、損害及び加害者の双方を知ったときから3年間この権利を行使しないと、時効によってその権利が消滅します(民法第  724条)。

ただし、時効期間を経過すると直ちに権利が行使できなくなるのではなく、加害者が時効を援用(主張)することによって、時効が完成し損害賠償請求権が消滅します。 損害又は加害者が、事故後20年間分からないまま経過した場合(例えばひき逃げ事故)も損害賠償権は消滅します(民法第724条)。

(3)時効中断の方法  

時効の期間が迫っているという場合には、請求権者は時効中断の手続をとる必要があります。

時効中断手続としては、被害者が加害者に対して損害賠償請求の調停申立をしたり、訴訟を提起することが考えられます。加害者が損害賠償債務を承認した場合も時効は中断します。例えば、加害者が被害者に対して損害を賠償する旨の書面を差し入れたり、 損害賠償金の一部を支払った場合などは、債務の承認があったものと考えられるでしょう。

時効の期日が迫っている場合には、まず内容証明郵便等で相手方に請求し、これが相 手方に到達すれば時効を一時的に中断することができます。しかし、裁判所に対する調停申立や訴訟提起とは異なり時効中断の効力は弱いものとされ、内容証明郵便が到達し たのち6か月以内に裁判上の諦求(調停申立・訴松提起)をしないと、結局時効により 損害賠償請求権は消滅します。

自動車損害賠償責任保険(強制保険)のあらまし

(1)自動車損害賠償責任保険とは  

交通事故の保険には、自動車損害賠償保障法(自賠法)により強制加入しなければならない「自動車損害賠償責任保険保険(強制保険)=自賠責保険」と、自由意思で加入する 「自動車保険(任意保険)」があります。  

交通事故が起こった場合に第一の土台となるのが自賠責保険です。賠償問題は、まず自賠責保険から法律で定められた範囲内で補償費が支払われ、不足分は任意保険又は加害者自身によって支払われるのが通例です。

自賠責保険は、任意保険と性格が異なり被害者保護に重点が置かれているので、自動車事故による被害者すべてが補償の対象となり、被害者に重大な過失があった場合のほかは減額されません。

※ 自賠責保険加入していない自動車(無保険車)を運行の用に供した場合には、罰則が適用されます(自賠法第5条、第86条の3第1号)。

(2)賠償される損害の範囲  

この保険は、人身事故のみを対象としたもので、自動車、建物など物的損害は賠償されません。

また、他人に与えた損害に限られていますから、事故を起こした車の運転者又は運行供用者は、自分の車に付いている自賠責保険からは補償されません。

 請求の方法  

ア 加害者請求・・・加害者が被害者に損害賠償金を支払った後に、加害者がその領収書その他必要書類を添えて、契約している損害保険会社に請求します。  

イ 被害者請求・・・「加害者が支払わない」、「誠意はあるが支払能力がない」、「賠償責任を認めない」などの理由で、加害者からの賠償が望めない場合、被害者は加害者の契約している保険会社に直接請求できます。


ひき逃げや無保険車のときは(政府保障事業)  

ひき逃げされた加害自動車が不明だったり、加害車両が自賠責保険の締結がない無保険車であったような場合、自賠法の定めにより政府が保障し、被害者の救済を図っています。

保障制度の内容、手続などは、自賠責保険に類似しています(自賠法第72条)。

(1)政府保障事業の対象となるとき  

ア 自動車にひき逃げされたとき等、保有者不明の場合  

イ 自賠責保険に加入しなければならない義務があるのに、その義務を怠っている自動車(無保険車)との交通事故によって死傷した場合  

ウ 自賠責保険の保険期間が経過してしまっている自動車(無保険車)との交通事故によって死傷した場合  

エ 自賠責保険に加入しているが、まだ保険期間が始まっていない自動車(無保険車)との交通事故によって死傷した場合

 オ 自賠責保険に加入する手続はしているが、保険料未納などで保険会社で責任をもっていない自動車(無保険車)との交通事故によって死傷した場合  

力 構内自動車(道路上で運転しない自動車で自動車登録原簿に登録を受ける必要のない自動車)との交通事故によって死傷した場合  

キ 盗難、無断運転などで保有者に全く責任が認められない自動車との交通事故によって死傷した場合

(2)政府保障事業の対象とならない主な場合  

ア 加害者に賠償責任が発生しない場合(自賠責保険は賠償責任保険であるため。)  

イ 自動車の運行によって死傷したものでない場合  

ウ 被害者が自賠法第3条の他人に当たらない場合(保有者、運転者等)  

エ 請求期間を過ぎて時効となっている場合

※ 自賠責保険に加入している自動車による事故の場合であって、保有者及び その責任が明らかなのに保有者が損害賠償をしなかったり、自賠責保険の請求手続をとってくれないからといって、この政府保障事業を適用すること はできません。  この場合には、保険会社に対していわゆる被害者請求をするか、裁判所に 損害賠償訴訟を起こすことになります。